本間 龍のブログ

原発プロパガンダとメディアコントロールを中心に、マスメディアの様々な問題を明らかにします。

出所者が再犯を犯さざるを得ないメカニズムとは(3)

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(最新号は、飯塚事件の記事を扱っています)





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 先日の続きを書いてみよう。
再犯ニュースを取り上げた多くのブログに共通するのは、ム所が楽すぎるから再犯するのだ、もっと厳しくするべきだ、という意見だ。さらに、

・三食保証されているのは贅沢だ
・医療もただなんておかしい
・懲役のくせに労働してカネまでもらっているのはおかしい
・食事の内容は贅沢で、休みや正月は菓子もでる
・完全週休2日なんて贅沢だ
・最新式のPFI(半官半民)刑務所は自由がありすぎて、それに味をしめて再犯するヤツがでくるのだ

 というような意見がでてくる。実際はどうか検証してみよう。

ブログを書いている人間にも貧富の差がある。ヒルズのようなマンションでゆったりと書いている者もいれば、下町の四畳半でみかん箱の上にパソコンを置いて書いている者もいるだろう。

 はたから見ればその差はとてつもなく大きいが、実は両者には「ブログを書く自由」があるという重要な共通項がある。そしてその記事を書くために様々なメディアから情報を得ているだろう。

 ところが当然ながら受刑者にはそのような自由は一切ない。夜21時になれば絶対に布団を敷いて横にならなければならないし、そもそもPCなど部屋に持ち込めるはずもない(殆どのム所にはPCそのものがない)。自らの意見を発表するなど絶対に許されていないのだ。懲役刑は「自由刑」といって、自由を奪う刑なのだから。

 毎日朝6時半に起床、16時に部屋に戻るまで工場に行って労働に従事する。その間(休み時間を除いて)、原則として他人と会話してはならない。用便も午前午後1回ずつしか許されず、勝手には行けない。しかもトイレのドアには大きな窓があり、腰から上は外から丸見えだ。

 もちろん作業中に喉がかわいても席を立って水を飲みになどいけない。38度以下の発熱では寝ていることも許されない。座って作業している者は、作業以外で顔を上げることも許されないから、ずっと手元を見て作業しなければならない。決まりを破れば即懲罰だ

 服役中は手紙以外の通信手段はない。しかも発信できる数は月4、5通に制限されている。そしてたとえ親兄弟の葬式であろうとも出席はできない。刑が停止されるのは本人が重態となって入院するときだけだ。

 三食は確かに保証されているが、内容は毎日2000〜3000カロリーに抑えられている。新鮮な野菜や生鮮食品は食中毒の危険性があるからでてこない。だから内容はごった煮系のものが多くなり、老人にも配慮しているので歯ごたえのあるものは出ない。そして献立は2〜3週間で同じようなものがローテーションするだけなので、半年も経てば飽きてくる。

 また、食事は出されたときに全て食べ(残す場合は全て捨てなければならない)、取りおきして後から食べることは許されない。夕食が終わってしまえば翌朝までお茶もコーヒーもない。(水のような全く味のない茶は配られているが生水を飲むよりマシな程度だ)ようするに自分が欲しいときに飲み食いすることは一切出来ない。

 医療は確かにただだが、常駐医がいるわけではなく、とりあえずは看護士が診て簡単な投薬をするだけだ。ム所に来る前からの投薬は原則として続けて受けられるが、特に内科系は入ってから新しい病気にかかってもなかなか診てもらえない。

 また、特に多いはずの精神科系の医者は皆無、ケアもなにもないから不眠を患って睡眠導入剤を飲む者が異常に多い。歯科が一番悲惨で、痛いからと言って申し込んでも三ヶ月以上待たされる。これが医療といえるだろうか?

 労働の対価として確かに作業報奨金が払われる。これはそもそも出所の際社会復帰に役立たせようとのものだが、時給に換算して僅か5円、月給でも最初は800円に満たない。私などは用務者という最高ランクに位置していたのに、一年間で1万6千円にしかならなかった。

 初犯刑務所はだいたい3年〜5年くらいの刑が多いが、5年居ても10万円たまるかたまらないか程度であり、開発途上国の賃金より遙かに低いと揶揄されている。一体これで社会復帰に役立つなどといえるだろうか?

 また、完全週休2日制ではあるが、これは管理側が公務員だからそれにならっているだけであって、むしろ受刑者は暇になるよりは働きたいと思っている者が多い。

 さらにGWなどの連休は部屋から一歩も出られないのでストレスが溜まるばかりであり、管理側さえなんとかすれば休日出勤だって厭わない受刑者はかなりいるはずだ。つまり休みは管理側の都合であって受刑者側の要望ではない。

 そしてPFI刑務所。確かにまるで最新の企業研修所のようで誤解を生みやすいが、あそこに入れるのは初犯でしかも素行が良い者(初犯刑務所で懲罰歴がない者)に限られる。つまり再犯した者は必ず累犯刑務所に送られてしまうので、PFIが居心地良かったとしても、二度とそこに戻ることはないのだ

 だからブログなどで喧伝されている「PFIの居心地の良さが再犯を生む温床になる」などということはありえない。第一、再犯したら初犯より格段に厳格な累犯刑務所行きということは受刑者なら誰でも知っている事実だ。

 
 長々と書いてしまったが、上記のようなことを聞いてもなおム所の生活を「楽だ」と感じる者がいるとすれば、その神経がどうかしていると思う。「毎日へとへとになるまで働いて休日出勤もあるからム所の方が楽だ」などという人も必ずいるが、それでもまだそこを辞める自由は持っており、それを行使していないだけだ。受刑者には厭だからと言っても拒否できる自由など一切ない。

 念のために書くが、私は上記を通じてム所内の扱いに不満を述べているのではない。法を犯し、他人に迷惑をかけた者が自由を制限された中で罪を償うのは当然のことであり、厳しい運用自体は理に叶っていると思う。ここでは単純に、「ム所の中は決して楽ではない」ことだけを分かっていただくために色々書いてみた。

 上記のような扱いを24時間365日、刑期によっては何年も体験した者の殆どは、二度とム所に戻りたいとは思わない(ごく少数の例外はどこの世界にもいるからそれは除外)。にもかかわらず5年以内の再犯率が6割近いのは一体ナゼか。

 答えは簡単、出所してもカネがないから住む家はないし、何の公的支援もないから安定した職につけないから、あっという間に浮浪者になってしまうからだ。そして食うことが出来ず、しかたなく生きるか死ぬかの二者択一を迫られて、結果としてただ生きるために再犯を犯す。決してム所が楽だと思ってのことではないのだ。

 一度刑を受けた者はたとえ100円の万引きでも即懲役刑になるから、再犯と言ってもそんなレベルの者も非常にに多い。そうして彼らは厳格な累犯刑務所に送られ、更に社会復帰から遠ざかっていくのだ。これはまさに排除のメカニズムといえるだろう。

 ム所の厳しさを書いていたら結構長くなってしまったので、出所後の「排除のメカニズム」についてはまた次号で。 

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