本間 龍のブログ

原発プロパガンダとメディアコントロールを中心に、マスメディアの様々な問題を明らかにします。

森川元検事が謝罪しないのは検察の総意だ

 菅谷さんにとって、釈放されてから最悪の、悪夢のような1日だったろう。

 自身が無理矢理自白させられるテープを一日中聞かされたあげく、ようやく出てきた取調べ担当検事は頑として謝罪せず、「17年間無実の罪で刑務所に入れられていたことをどう思うか」という血涙振り絞るような問いにも「非常に深刻に思ってます」と答えたのみ。

 「非常に深刻」とは一体何をどう深刻に思っているのか、弁護団には徹底追及して欲しかった。18年前、森川が延々と菅谷さんを問いつめたように。

 彼が考えている「非常に深刻」とは、無実の人間を17年間ム所に叩き込んだことなどではなく、法の秩序を理解しない無知な輩がよってたかって唯一無二の最高権力者である検察に対し異議を唱えているこの事態こそが「深刻」である、「けしからん」と言いたかったのではないか?彼の発言を辿っていくとそういう風にしか感じられない。

 弁護団とのやりとりを掲載しよう。一番良いのは産経だが、長すぎるので読売新聞サイトから。


(転載ここから) 
宇都宮地裁で開かれた足利事件再審公判での森川大司検事(当時)への証人尋問の主なやりとりは以下の通り。


       ◇
菅家 17年半もの長い間、無実の罪で捕まっていたことをどう思うか。

森川 主任検事として証拠を検討して犯人に間違いないと判断して起訴した。犯人ではないことが判明して非常に深刻に思っている。

菅家 全部やっていないと正直に言ったのに、なぜ弁護士や裁判所に伝えなかったのか。

森川 どういう調べをするのかは検察官の裁量と考える。弁護士や裁判官に逐一報告する必要はないと考えていた。

菅家 謝ってください。

森川 新たなDNA型鑑定で犯人でないことをうかがった。深刻に受け止めている

菅家 家族に謝って。

森川 今申した通り。

菅家 今苦しんでいる。どう思うか。

森川 今申した通り。

菅家 反省していないのか。

森川 話した通り

菅家 私を人間性がないと言った。あなたの方がないんじゃないか。私は怒っている。

森川 人間性がないと言ったつもりはない。

菅家 テープを聞き、つらい思いをした。謝る気はないか。

森川 深刻に受け止めている

菅家 立場を逆に考えてほしい。謝ってください。

森川 申し上げている通り。

    ◇
佐藤博史弁護士(以下佐藤) 菅家さんをどういう性格だと思ったか。

森川 強く言うと反論できない、おどおどしていると思った。

佐藤 逮捕は上司から自白が取れなければだめだと聞いたことは。

森川 近いような言い方をされた。

佐藤 死刑になる可能性があると菅家さんに話したか。

森川 刑務所から一生出られないという話はした。

佐藤 自白がパターン化しており、虚偽と考えたことは。

森川 ない。

佐藤 92年12月7日の取り調べで菅家さんが否認した。翌8日、本件について「認めているから起訴したわけじゃない」と菅家さんに言っているが。

森川 否認しても有罪だと考えていた。公判の証言も重要な証拠だ。

佐藤 公判で菅家さんが否認した時、取り調べに否認したことが頭をよぎらなかったか。

森川 よぎったというか、やっぱり否認したのかと思った。

佐藤 公判では、取り調べ時の否認に言及しなかったのは、隠すためだったのか。

森川 隠すということとは違う。言及する必要もなかった。

佐藤 取り調べで否認したことを裁判所が知っていれば判断が変わった可能性もある。

森川 わからない。

佐藤 無実だと思ったことは。

森川 それはない。

佐藤 科学警察研究所のDNA型鑑定の証拠価値をどう判断したか。

森川 DNA型鑑定だけで認定したわけではないが、鑑定が有力な証拠と思った。

佐藤 犯人の精液と菅家さんの精液が一致したことを告げ、「同じ精液を持っている人が何人いると思うんだ」と追及したのは、鑑定の証拠価値に無知な菅家さんを錯覚に陥れる取り調べでは。

森川 そう思っていない。

佐藤 無実の人に自白させたことに反省はないか。

森川 証拠はそれぞれの時に判断すべきもので、答えようがない。

石塚章夫弁護士(以下石塚) 否認した翌日の取り調べは、足利事件が目的の一つか。

森川 そうなるかと思う。刑事責任を免れる虚偽供述だと判断し、信ぴょう性を検討するために確認した。

石塚 その際、黙秘権について告知したか。

森川 覚えていない。黙秘権は何度も伝えていたのでわかっていると思った。

泉沢章弁護士 テープを取った理由は。

森川 別の2件の幼児殺害事件は証拠が薄く、供述の仕方や態度が証拠になると考え、独自判断で録音した。

(2010年1月22日22時17分 読売新聞)


 読むのも辛いやりとりだが、森川の態度は見事なほど終始一貫している。当時持ちうる証拠から判断して犯人と断定した行為に間違いなど無かった、だから謝罪の必要はない、というもので、頼み込むように謝罪を要求する菅谷さんに対し「話したとおり」「今申したとおり」を連発する姿は冷酷な鉄面皮そのものだ。

 しかし、普通の人間なら、17年もの間ム所に叩き込んだ事に対して少しは悔恨の情があるだろう。菅谷さんの性格から見て、一言「すみませんでした」といえば積年のわだかまりも消えただろうに、彼が頑なに謝罪しなかったのは、それが検察の総意だからだ。

 その当時の状況から判断して有罪なら絶対に有罪。あとで無罪だったと判明しても、こちとら年間何千件もの悪人を裁いてるんだから一人くらい間違いがあってもしょうがない。いちいち謝罪などしていたら検察の権威が地に墜ちてしまい、(もうとっくに墜ちているが)悪人共からなめられる。だから絶対に謝罪しない。

 更に、結果的に菅谷さんを17年ものあいだ収監しつづけたのは、検察の責任だけでなく、(もし責任があるとするなら)警察や裁判所にも責任がある。どうして担当検事だけが謝罪しなければならないのだ。そんなバカなことができるはずがない。検察側の思考回路とはそんなものだろう。もしそうでないなら、とっくの昔に検事総長が菅谷さんに謝罪してしかるべきだ。そうしないことが、検察の総意を雄弁に物語っている。

 確かに、絶対に謝罪しないという権威の守り方はあるだろう。しかし、この事件は17年もの長きに渡り無実の人間の自由を奪ってきた、という検察史上稀に見る恥ずべき事件だ。

 再審ははじまる前から無罪を言い渡すことが決定していて、検察もさすがに今回は最初から降伏して争わない。であるならば潔く自らの誤りを認めてもおかしくなかった。誤りを認めて潔く謝罪するというのは決して恥ずべき行為ではないからだ。だがあの組織には存在しないロジックなのだろう。

 それにしても昨年、宇都宮地検の検事正が菅谷さんに謝罪したのは一体何だったのか?当時の担当検事は謝罪しないが、当時を知らない人間が形式だけの挨拶をした、ということなのか。


 無実の人間の自由を17年間も剥奪していた行為は「犯罪」ではないのか?その責任を誰も取ることがない、謝罪もしない、ということが許されていいのだろうか?重い問いは残ったままだ。

 
 
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