愛を読むひと
今頃という気もするがレンタルで「愛を読むひと」を観た。
原作は読んでいないので対比は出来ないが、映画は抑制のきいた演出と音楽、そしてなによりも主演のケイト・ウインスレットの演技が素晴らしい作品。
舞台は1953年のベルリン。少年マイケルが関係を持った年上の女性ハンナは、彼に様々な本を朗読してもらうのが好きだった。ホメーロス、トルストイ、チェーホフ、ロレンス・・・彼女の求めるまま、青年は本を読み、彼女との束の間の情事に耽る。
しかしある時ハンナは、別れを予感して自ら姿を消してしまう。数年後、法科大学生になったマイケルが彼女と再会したのは、ナチスの罪を裁く特別法廷だった。彼女は第二次大戦中、絶滅収容所アウシュビッツで看守をしていて、数百人のユダヤ人を殺した裁判の被告になっていたのだ。
他の被告達が罪から逃れようとする中、ハンナは数百人のユダヤ人殺害の罪を背負って無期懲役刑になってしまう。マイケルは自分が愛した女性の罪の大きさに苦悩し、やがて本を朗読したテープを彼女に送りはじめ、約20年間に渡って彼女を見守り続ける・・・
観ていない人の為にこの辺でやめておくが、実はこの映画の特に感動的なところは、後半の約20分間にある。20年間、マイケルはひたすら朗読テープを送り続け、彼女に面会も手紙も書かない。それは一体何故なのか?
そして、戦時中ナチス党員だった者はどこまで裁かれなくてはならないのかという最も重い命題。高級幹部は別として、収容所の看守などという末端の人間が負わなければならない罪とは何か。
国ぐるみでユダヤ人絶滅を実行したドイツ人が、永遠に背負い続ける宿業。たとえハンナが隠れて囚人達に食事を与えていた「優しい看守」だったとしても、囚人をガス室送りにしていた罪は絶対に消えない。
劇中、年を取った裁判長の「なぜあなたは囚人を見殺しにしたのか」という問いに対し、「私は看守として秩序を守らなければならなかった。あなたならどうしましたか?」と反問するハンナの表情に息を飲む。裁判長は困惑した表情で何も答えられない。
恐らくその裁判長も、戦時中ナチスに熱狂したこともあったろう。少なくとも積極的にナチスと対峙していないからこそ、弾圧されずに今があるはず。そういう人々とハンナの間にある罪の差とはなにか。
犯した罪の種類は全く異なるが、同じ罪人である私にとって重く苦しい内容だった。
法律的には既に清算は済んでいるが、私が精神的に傷つけてしまった方々に対する罪は一生消えず、その記憶も薄れることはない。人はどこまで己の罪と向き合わなければならないのか、経験を負った人間には非常に重く、意味のある映画だった。
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