本間 龍のブログ

原発プロパガンダとメディアコントロールを中心に、マスメディアの様々な問題を明らかにします。

広島刑務所脱走事件に思うこと

マスコミ・映像関係者の皆様
 勾留施設についての記事制作・番組制作等でのコメントや、ドラマや映画制作の設定監修等でご質問があればお気軽にご相談下さい。報道番組へのコメント、新聞社との特集制作、テレビドラマの設定監修等で実績がございます。

 また、刑務所内部の話、刑務所を中心とした拘禁施設の現状、再犯問題、出所者の社会復帰についての講演・講義も行っております。お気軽にご相談下さい。


ー最近の講演・出演からー     主催団体/講演主題 

2011年10月16日 
千葉県ろう重複障害者施設をつくる会   私の刑務所体験・塀の中で出会った高齢者と障碍者

   11月21日    
学習院大学法学部庄司ゼミ        刑務所の実態と再犯問題
   12月 8日    
矯正と図書館サービス連絡会       刑務所の中と図書の重要性   


2012年1月13日
TBS 「マツコの知らない世界」    マツコの知らない刑務所の世界

2012年2月13日       
週刊現代2/25号にて「転落の記」が紹介されました



少々遅くなったが、広島刑務所脱走事件の最終報告について
思うことを書いておきたい。以下はNHKニュースから。


広島の脱走 “ことばの壁きっかけ”

広島刑務所での中国人受刑者の脱走事件について、法務省は29日、検証結果の最終報告をまとめ、この中では、受刑者がことばを理解できないことなどから処遇に不満を持ち、脱走のきっかけになったことを明らかにしたうえで、今後、通訳などの体制の充実を図る方針を示しました。

広島刑務所で、先月、中国人の受刑者が脱走した事件を受けて、法務省は刑務所の対応や原因の究明などを進め、先月下旬には、警察への事件の通報の遅れなど初動体制の問題点を指摘した中間報告を公表しました。
法務省では、その後も脱走した受刑者からも事情を聞くなど、引き続き検証を進めて最終報告をまとめ、29日、小川法務大臣が記者会見して公表しました。

この中では、受刑者が脱走した動機について、「刑務所で使う教材の日本語が十分に理解できないなど、処遇に不満を抱くなかで、妻の両親が体調を崩したことを手紙で知り、脱走を決意したと考えられる」としています。

そのうえで、刑務所で外国人受刑者との意思疎通を図ることが重要だとして、今後、通訳や翻訳の体制の充実を図ることなどを盛り込みました。

一方、小川法務大臣は、嶋田博前広島刑務所長など当時、事件の対応に当たった職員合わせて12人を減給に、また1人を訓告にすることも発表しました。これを受けて嶋田前所長は29日、法務省に対し辞職願を提出し受理されました。
(引用ここまで)


 先ずはこの最終報告書を高く評価したい。今までなら、この中国人受刑者の脱走理由を「身勝手な理由で」と切り捨てて、「監督強化に努めたい」といういい加減な報告書で終わるのがこういう場合の常(注:脱走事件ではなく、刑務所で発生した不祥事の場合、という意味で)であったが、今回は外国人受刑者に対する対応の未整備を認め、その対策に本腰を入れる旨明記してあるからだ。言うなれば現在の処遇に問題があることをあっさりと認めた訳で、私は結構驚いた。

 しかし云うは易しで、圧倒的な人手不足と予算不足に悩む全国のム所に通訳を配置し、さらに外人受刑者のケアをするのは容易ではない。

 現在、約7万人の受刑者に対し外人受刑者数は約3千5百人。今回の中国人はその中で一番多い3割を占めていて、英語と並んで刑務所の中にある図書などでは比較的恵まれている方だが、きちんとした通訳まで配置しているのは全国のム所でも横浜や府中等数カ所に過ぎない。

 他の言語としては朝鮮語タガログ語ポルトガル語・スペイン語・ベトナム語タイ語ペルシャ語・英語(割合の多い順)などを話す受刑者がそれぞれ存在するから、刑務所内処遇の平等性を確保しようとするなら、中国語ばかりを優遇するわけにもいかないだろう。

 しかし、上記のような通訳と意思疎通の必要性が正式に発表されれば、日本の官僚はまじめ故に予算獲得に全力をあげるから、少しずつでも対応が図られていくだろう。それに比べれば、放置状態にある精神障害のある受刑者、認知症受刑者たちは、その人数が多すぎる故に状況が改善されないのとは対照的である。

 最後に、まだ脱走者が捕まらないときにニュースに出ていたオバハンが「こういうことがあるから、刑務所みたいな施設は怖い。私達の周りからなくなって欲しい」と宣っていたが、これは全くのお門違い。広島刑務所は明治21年から今の場所にあり、当時は殆ど周囲に民家がなかった。後からその周りに住みついてきたのがあなたたちだ。文句はご先祖様に言うべきで、刑務所が悪いわけではない。 

映画「孤島の王」を観て ー矯正とは何かー

マスコミ・映像関係者の皆様
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ー最近の講演・出演からー     主催団体/講演主題 

2011年10月16日 
千葉県ろう重複障害者施設をつくる会   私の刑務所体験・塀の中で出会った高齢者と障碍者

   11月21日    
学習院大学法学部庄司ゼミ        刑務所の実態と再犯問題
   12月 8日    
矯正と図書館サービス連絡会       刑務所の中と図書の重要性   


2012年1月13日
TBS 「マツコの知らない世界」    マツコの知らない刑務所の世界

2012年2月13日       
週刊現代2/25号にて「転落の記」が紹介されました





 昨日、配給会社からの御招待でノルウエー映画「孤島の王」http://youtu.be/3FwFeinthVcを鑑賞した。刑務所(正確には少年院)のお話しなのでお声をかけて頂いたようだが、素晴らしい作品なので是非ご紹介したい。

 舞台は20世紀初頭のノルウエー。首都オスロ南東の孤島バストイに、罪を犯した11〜18歳の少年たちを収容する「バストイ少年院」があった。過ちを犯した少年たちを俗世間から隔離し、キリスト教の教えに基づいた矯正を施し、社会復帰させる目的で設立されたが、そのあまりに厳格で人間性を無視した「規律」に、遂に少年たちの怒りが爆発、ある日反乱が勃発する・・・一体バストイで何が起きたのか?これは実話に基づく物語だ。

 ノルウエーやスエーデンなどの北欧諸国は、現在世界的に「最も受刑者に優しい国」と言われている。彼の国の刑務所は受刑者の人権を最大限尊重し、まるで大企業の宿泊施設のような作りで、日本の刑務所を体験した者には本当に驚かされる。彼らの刑務所に比べれば、黒羽など旧石器時代の竪穴式住居のようなものだ。

 その北欧諸国にも、かつては人権を抑圧した歴史があった。近代化において、どんな国でも試行錯誤しながら人権擁護を育んできた。彼らが現在受刑者に寛大なのは、別に受刑者を甘やかしているからではなく、再犯を減らすことこそが社会の安定に不可欠だということを十分に理解しているからであり、過度な自由剥奪と抑圧はかえって反発を招き、矯正に寄与しないことを(体験を通じて)知っているからだ。それは今の日本で進行する「厳罰化」が、実は歴史的に否定されていることを意味している。この映画は「罪を犯した人間の復帰には、強制力や暴力は役に立たない」という明快な事実を突きつけてくる。

 私は、権力によって自由を剥奪されることの恐ろしさと苦痛を身を以て体験しているので、劇中の少年たちの心境が余計に胸に迫った。犯罪者といっても、島に集められた少年たちの殆どは軽微な罪であり、彼らの瞳はあくまでも澄んでいて痛々しい。そんな彼らを、命を賭した反乱にまで追い込んでいく「抑圧」の恐ろしさを、映画は淡々とした映像で明らかにしていく。そしてラストは、ハリウッド映画などとは明らかに異なる、静かな感動を見る者に与えてくれるのだ。

 それにしても「ドラゴン・タトゥーの女」スウエーデン版もそうだが、彼の国の人たちが作る映像には、日本人には絶対真似できない凛とした美しさと共に、底知れない怖さ(寒さ?)がある。この映画でも劇中殆どがバストイ島を覆う冬の景色なのだが、もうそれだけで気が滅入って否応なしに作品世界に引きずり込まれてしまうのだ。美しい映像、無駄のない脚本、そして若い俳優たちの才気迸る演技が光る作品ー「孤島の王」は傑作だ。

 

週刊現代2月13日(月)発売号にて「転落の記」が紹介されます

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ー最近の講演・出演からー     主催団体/講演主題 

2011年10月16日 
千葉県ろう重複障害者施設をつくる会   私の刑務所体験・塀の中で出会った高齢者と障碍者

   11月21日    
学習院大学法学部庄司ゼミ        刑務所の実態と再犯問題
   12月 8日    
矯正と図書館サービス連絡会       刑務所の中と図書の重要性   


2012年1月13日
TBS 「マツコの知らない世界」    マツコの知らない刑務所の世界



 皆様こんばんは。
またまた私事で大変恐縮ですが、明日発売の週刊現代にて、拙著「転落の記」が紹介されます。
これは当方の仕込みではなく、同誌編集部からインタビュー依頼があったもので、先日お会いしてお話しさせていただきました。

 書籍の場合、通常は「新刊書籍紹介」のページになるのですが、今回は通常の特集記事扱いで、4ページに渡って拙著の内容に関する質疑応答になっています。編集者様からは「同じサラリーマンとして非常に身につまされた。是非紹介したいと思った」とのお言葉をいただき、今回の掲載に至りました。ご関心のある方は、是非同誌をご覧下さい。
             

「転落の記」売れ行き好調です

 先月20日に新著「転落の記」を発売しましたが、お陰さまで売れ行き好調、増刷もみえてきました。全国の書店さんでは平積みで置いて頂いている処もあり、大変有難く思っております。
すでにお読みいただいた方からは、

・リアリティにぞっとした
・あまりにも激しい描写に思わず涙が出た
・苦しさが伝わってきて、吐き気を催す程だった
・サラリーマンとして他人事ではないと感じた
・1つ嘘をつくことが重大な結果を招くことを肝に銘じた

 等々のご感想を頂いています。皆様からは特に事件を犯して逮捕されるまでの描写に共感を頂いており、書き手としての思いが確かに伝わっていることに安堵しております。また、雑誌等からのインタビューも頂いたので、発売時期は追って発表したいと思います。

 ところで拙著発売後直ちに、かつて私が所属し、拙著の中にも書いた会社(敢えて社名は書きませんが、本書の中では実名です)から抗議文が届きました。詳しい内容は伏せますが、拙著に書かれている内容は虚偽であり、営業妨害にあたる云々という文章でした。これに対し当方からはもちろん内容は虚偽ではないこと、書かれていることも営業妨害にあたるレベルではない旨、逐一説明をつけて回答しました。

 同時期に同社社内イントラネット上で拙著は虚偽であり、私に対し抗議文を送付した旨発表されたので、同社社員による当ブログへのアクセスが数千件ありました。そこで念のため書きますが、私の回答後は、同社から再度のアクセスはありません。ですので拙著の内容は虚偽などにはあたらないことを、(当然ですが)ここで再確認させていただきます。同社イントラネットでもこの旨を発表して欲しいのは山々ですが、そこまでは要求致しません。

 内容が当時の社内と得意先描写を含んでいる点で、会社としては一応抗議しておきたい立場は分りますが、拙著の中で私が同社を誹謗中傷した記述は一切ありませんので、それは読者の方には十分伝わっているでしょう。

転落の記

転落の記

新著「転落の記」発売します

 皆様こんばんは。
先週のマツコの知らない世界放映直後からかつてないほどのアクセスが殺到し、1日で1万3千アクセスも来たのにはびっくりしました。さすがにマツコさん効果は巨大でした。おかげさまで視聴率も好調で、番組始まって以来2位だったそうです。マツコさんは大変やさしい方で、番組進行も非常に楽しかったです。

 前回も書いた通り、前科を持つ私が素顔を晒して話をするのは、刑務所の真実をもっと多くの人々に知って欲しいことと、出所者に対する偏見をなくして欲しいからです。そういう意味で番組中のマツコさんはじめスタッフの皆様の分け隔てのない態度、作業報奨金6円に対する素朴な驚愕と憤りは、大変有難く感じました。今後もあのような機会があれば、是非参加させて頂きたいと思っています。

 ところで、明日20日は私の1年振りの新作「転落の記」が発売となります。
この作品は私がなぜ犯罪を犯し、どのような経路を辿って今に至っているかを赤裸々に語ったものです。逮捕までの描写に重点を置いたため刑務所から出所まではわりと駆け足になっていますが、愚かな私の軌跡を包み隠さず書きました。

 それまでは比較的まじめに生きてきた「私」が犯罪を犯し、急坂を転げ落ちるようにして刑務所に至った理由はなんだったのか。人生においてはどんな瞬間にも陥穽があり、誰しもそこに落ちる可能性がある・・・という恐怖をリアルに感じて頂ければ幸いです。ご興味のある方は是非ご一読下さいませ。

また、下記の日程で飛鳥新社1月新著広告も出ますので、併せてご参照下さい。

1月22日(日) 朝日新聞 全5段 
1月23日(月) 毎日新聞 全5段 
1月24日(火) 読売新聞 全5段 
1月26日(木) 産経新聞 全5段 

転落の記

転落の記

「マツコの知らない世界」に出演します

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TBS 「マツコの知らない世界」に出演します

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 また、刑務所内部の話、刑務所を中心とした拘禁施設の現状、再犯問題、出所者の社会復帰についての講演・講義も行っております。お気軽にご相談下さい。


ー最近の講演からー     主催団体/講演主題 

2011年10月16日 
千葉県ろう重複障害者施設をつくる会   私の刑務所体験・塀の中で出会った高齢者
                       と障碍者

   11月21日    
学習院大学法学部庄司ゼミ        刑務所の実態と再犯問題

   12月 8日    
矯正と図書館サービス連絡会       刑務所の中と図書の重要性               


 皆様、明けましておめでとうございます。

 更新するといいながら、またまたツイッターばかりやっていて、さらに新著の執筆にかまけていたりでこちらが放ったらかしになっていて申し訳ありません。

 本日はお知らせを。今週13日(金)の24時35分から放送のTBSマツコの知らない世界http://www.tbs.co.jp/matsuko-sekai/に出演致します。

 TBSの番組担当者からご依頼があり、あのマツコデラックスさんといきなり対面することが出来ました。詳しいことは番組終了後にアップしますが、私が「刑務所の中」や「ム所の食事」についてプレゼンテーションを実施し、マツコさんが色々質問する、という形式の番組構成です。

 私としては、少しでも刑務所の中の実態や、出所者の社会復帰の困難さを視聴者の方に知って頂ければと考えて出演しました。しかし、収録は1時間以上かかりましたが、実際の放送枠は30分です。また、あくまでバラエティーであって報道番組ではないので、あまりシビアな話は放送されないと思います(私は編集には一切ノータッチです)。

 ですが、このような出演を通して様々な質問にお答えし、刑務所の実態を1人でも多くの方に知って頂けることを目指しています。ひいてはそれが、累犯問題について考えて頂く第一歩になると思うからです。今年もどうぞ宜しくお願い致します。

市橋被告の著書「逮捕されるまで」が映画化されるらしい。(12/2追記有り)


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以下、スポーツ報知より転載。http://hochi.yomiuri.co.jp/entertainment/news/20111123-OHT1T00020.htm

 2007年、千葉県市川市で英会話講師の英国人リンゼイ・アン・ホーカーさん(当時22歳)が殺害された事件が初めて映画化されることが22日、分かった。殺人罪などで無期懲役の判決を受けた市橋達也被告(32)が逃亡生活の様子、心境をつづった手記「逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録」をもとに、香港、台湾で活躍する日本人俳優ディーン・フジオカ(31)が初監督、主演に抜てきされた。タイトルは「I am Ichihashi〜逮捕されるまで〜」で、来年公開。

 映画「I am Ichihashi―」は、市橋被告の手記「逮捕されるまで―」(幻冬舎刊)が原作。前例のない逃亡犯の手記として、公判前の1月に出版され話題になった。

 アカデミー賞外国語映画賞の「おくりびと」を手掛け、今作も製作するセディックインターナショナルの中沢敏明プロデューサーは「映画の題材として際立っている。本来、映画は影があった方がおもしろい。そんな時にこの題材を見つけた」と説明。07年3月に千葉県警の職務質問から逃れ、09年11月に逮捕されるまでの2年7か月間、23都府県を転々とした市橋被告。映画では、4度の自給自足生活を送った沖縄・オーハ島、作業員として寮に住み込みで働いた大阪での生活を軸に人間の業を描く。

 監督、主演のディーンは香港、台湾で活躍する日本人俳優。日本での実績はゼロ、今作が初メガホンという異例の抜てきとなる。中沢氏が注目したのは、ディーンが高校卒業後、米、香港、台湾を10年以上渡り歩いてきた異色の人生経験だった。「長い間、外から日本を見ていたからか、日本人であって俯瞰(ふかん)的に日本を見られるまれな存在。独特の感性、考え方に強烈なインパクトを感じた」と起用を即決した。

 ディーンは原作を繰り返し読み、担当弁護士を取材。実際に、市橋被告の足跡をたどる旅をして役へのイメージを膨らませた。「オーハ島は平常心を保てない、地の果てのような場所。(大阪)あいりん地区は日本の社会の縮図を見た気がした。体に染み込んだ感覚を作品に反映させたい。今は取りつかれたくらいに四六時中、市橋被告のことを考えている」
 日本中を騒がせた殺人犯役だが「迷いはなかった」と言い切る。「自分の生まれた国で初めての仕事。努力次第だが、先に広がっていくチャンス」ととらえ、強い覚悟で挑む。「覚悟がなければやる意味がないし、やり切ることはできない。遺族の方、事件で悲しい思いをした人たちに責任感を感じる。命の尊さを伝えたい」と力を込めた。
 クランクインは来年1月を予定。市橋被告との接見を望むディーンに、関係者は「被告次第だが、どこかでチャンスを作りたい」と話している。(転載ここまで)


 さすがセディック、目の付け所が違う。市橋被告の著書は目論み通り売れて印税は1千万を超えたというから、潜在的な観客はいると踏んだのだろう。何よりも「リアル」のもつ力は凡百の創作物を遙かに凌ぐ。そういうものを観たいという人は少なからず存在するだろう。

 市橋被告は最初から、「印税は全てリンゼイさん御家族へ、受け取り拒否された場合は社会福祉に使って欲しい」と言っていた。御家族は受け取りを拒否したらしい、と聞いたがその後どうなっただろうか。

 この本の出版時に「不謹慎」とか「家族の気持ちを分かっていない」とか色々批判があったのは知っている。しかし、私はこの出版には肯定的な立場だ。殺人事件そのものは当然裁かれるべきで、彼自身も反省している。今さら何をしても亡くなった方は返ってこない。しかし、現実に法廷の場でその代償として必ず議論されるのが「損害賠償金」であることは誰もが知っている。命はカネに変えられない、ということは十分分かっていても、他に代替え出来る物がないから、結局その話になることが多いのだ。

 逮捕されたとき、市橋被告の所持金は20万円あまり。これが全財産で、彼は両親との通信も絶っているから、実質的に無一文に近い状態だ。その彼が、法廷で謝罪し刑に服する以外に、遺族になにがしかの賠償をしたいと望んだとき、賠償金を作る手段は手記を書くことしかなかった。通常、被告が動産や不動産を持っていればそれを処分して被害者に賠償するという一般的な方法を、彼は「手記」を書くことに置き換えたに過ぎない。私はそう思っている。そして、本の中身も、十分に抑制が効いた内容だった。
(彼の本についての感想は、2月1日の拙文http://d.hatena.ne.jp/gvstav/20110201/1296542080 をどうぞ)

 但し、映画化に関しては少々複雑な思いだ。今回の映画化も恐らく、その時に交わした契約に拠るものなのだろう。その収益の何パーセントかは遺族へ、ということではないか。でも多くの人間がかかわる映画は、その収益全てを寄付するわけにはいかない。ドキュメンタリーでもないなら、少しでも多くの観客に見えてもらおうという演出上の工夫が足されることになる。

 そのように、映像に音楽や様々なエフェクトをつけて感情に訴える工夫をした映画は、被告が文字に託した切実なメッセージを勝手に変えてしまう危険性がある。また、脚本段階で脚本家の思惑が入るし、俳優はどんなに熱演しても、所詮被告本人ではない。そこには、他人が無意識のうちに作り出す「別の市橋像」が投影される。そこまでいくと、果たしてそれは市橋被告が伝えたいと望んだことなのか、少し違和感を覚えるのだ。

しかも、被告本人は撮影現場に関わることが出来ないし、ラッシュ(試写)を観ることも出来ない。下手をすると、出所するまでその映画を一度も観ることが出来ないかも知れないのだ。しかし、映画が作られることで一段と批判を浴びるのは市橋被告自身である。最初から最後まで自分で書いた本なら、どのような批判がきても仕方がないが、全く制作にタッチできない映画の危険性について、彼はどのように考えているのだろう。彼の思いを聞いてみたいと思った。


 ☆12/2 追記


市橋達也君の適正な裁判を支援する会(http://naokimotoyama.blogspot.com/)の本山先生のブログは何度か紹介している。その11月29日の文章によれば、この映画化は完全に出版社と映画会社のみによる企画で、弁護団には事後通告だったらしい。しかも、「著者本人には発言権がない」とのことなのだが、これは出版の際の契約に基づくのだろうか。

 私も本を出しているし、元は広告会社の人間だから契約関係について少しは知っているが、これはちょっと奇妙だ。著作物に関しては当然ながら著者に権利が帰属するし、それを元にした映画ならば、当然著作権料が発生する。多いのは、著者は映画化の許諾だけして、OKならば許諾権料をもらい、あとは全て制作側に任す、というパターン。これだと、例え出演者やストーリーが意に染まなくても、作者は何も言えないのだ。

 しかし本山先生の記述では、市橋被告には映画化する、しないの許諾権さえなかったらしい。弁護士が文句を言わないと言うことは、本を出すときの契約書にそういう付帯条項があったのかもしれない。

 市橋被告本人は「勝手にすればいい」と言っているそうだが、本人の許諾を得ていないことは公開の際に必ずマスコミで話題になるだろうし、決してプラスには作用しないだろう。その辺りの整理をきちんとするべきではなかったろうか。



逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録

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苦役列車

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