外山ひとみ「ニッポンの刑務所」を読んで
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本日は先月発売されたばかりの講談社現代新書「ニッポンの刑務所」のご紹介を。
著者の外山ひとみ氏は有名な女性写真家で、約20年の長きに渡ってム所の写真を撮り続けてきた。今回はその写真50点を添えて、講談社現代新書で日本の刑務所の現状を描いた。
ややあれもこれも詰め込みすぎたきらいがなくもないが、随所にデータを駆使して非常に分り易い内容になっている。そしてさすが写真家だけあって、通常文章で想像させるしかない部分を写真で補い、それが抜群の効果を上げている。
実際、これまでお目にかかったことのない種類の写真がある。今までも、受刑者の行進や雑居舎房の写真は結構あったが、2名独居の写真はおそらくはじめてではないか。正直、よく掲載許可が下りたとびっくりした。
「2名独居」とは日本語的におかしな言葉だが、過剰収容が深刻になって以降、本来は独居(1名用)の部屋に無理矢理2名を収容することをそのように言っている。独居は3畳程度しかないから、2名入れば相当狭くなり、就寝の際には布団の端が重なり合う程だ。もちろんプライバシーのかけらもなく、トイレも衝立があるだけだから、臭いも音も防ぐことは出来ない。日本中の刑務所で、この2名独居が現在も行われているのだ。
通常、上記を文章で説明しても「はぁ、そうなのか」程度にしか思えないというか、分からない。そもそも今の日本に3畳の部屋などもう殆どないので、想像することすら難しいからだが、外山氏はそこを写真の力で解決してみせた。一般の人にも、部屋の異常な狭さと理不尽さがすぐに分かるように撮れているのだ。
失礼だが、氏の職業からして、私はもう少し写真が多く、各地の刑務所巡りにページをさいているのかと思っていたがさにあらず、
中身は過剰収容や高齢受刑者が激増している状況を丁寧に解説、問題提議を行っており、大変中身が濃い内容になっている。
通常、従来の元刑務官や大学教授らの解説だとなんら切迫感もなく心に迫ってこないのだが、時には受刑者や刑務官らとの語らいを差し挟みながら、刑務所という場所が抱える様々な問題を浮き彫りにしていく。現場の刑務官たちがいかに悩み、疲れているのかもよく伝わってくる。
今まで、こうした学究的な新書の刑務所モノは、元刑務官か専門家(学者)の書いたものしかなかった。それはそれで資料的な価値はあるが、どうしても堅苦しかったり、形式的な物言いが多く、ム所の実態を知りたい人間からするれば物足りなかった。
外山氏の作品は20年間の取材経験と丁寧な文章、分り易い写真でその物足りなさを相当解決していると感じた。もちろん受刑者ではないからどうしても細部は分からない部分もあるだろうが、そんなことは私のような経験者が書けばいい。
この「ニッポンの刑務所」は、受刑者ではなく、また専門家でもない立場の人が、初めてム所の内面に深く迫った(しかも非常に深く)作品として、高く評価されるべきものだと思う。興味のある方は是非ご一読を。
- 作者: 外山ひとみ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/03/18
- メディア: 新書
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